このコーナーの執筆依頼を受けた時、私自身の「お気に入り」っていったい何だろうと、ハタと考え込んでしまいました。私のお気に入りだったことって何だろう。

 思えば、小学生低学年の頃は親に絵の教室に通わされ、電車の絵を描いた時には枕木の下の砂利を緻密に描くことを覚え、小遣いを貯めてはプラモデル作りに精を出し、そのうちに鉄道少年になって埼玉の自宅から両親の実家がある秋田までの全駅名を諳んじたり、当時まだ走っていたSLの写真を一生懸命撮り、HOゲージの車両やプロペラ飛行機をバルサ材と紙で作ったりしていました。

 中学生の頃には、軟式テニス部に入って部活動に没頭する一方で、親にねだって買ってもらったラジオ(当時はソニーのスカイセンサーやナショナルのクーガなどが、その高機能とデザインで爆発的な人気を博していました)で短波放送を夜な夜な聞いてはベリーカード(受信確認証として放送局が発行するカード)を集め、技術家庭の授業で習ったインターホンやラジオのプリント基盤をどれだけシンプルに作れるか、基盤図を書いては秋葉原の電気街をうろちょろしていたこともありました。

 高校に入ってからは、弓道部に入って活動はしていたものの、何かに没頭していた記憶をあまり思い出せないのですが、高校の入学祝いのテクニクスのセパレート型ステレオ(懐かしい!)でFMチェックするのが好きで、オーディオ機器にも興味を持っていました(ここまで書けば、自分もそうであったと身に覚えがある方々もおられるのではないでしょうか)。そんなこんなで、何となく弱電(電子工学)関係か工業意匠のほうに進もうかなぁ、などと考えていた三年生の夏休みのある日、自分で描いた絵や線が、世の中に形を持って現れる建築なんかが面白そうかな、などという夢をみてしまったことが、流れ流れて現在広島にお世話になっているひとつのきっかけだったように思います。世界遺産、サッカー観戦、F1マシン、絵画鑑賞、ステンドグラス細工、ふみちゃんのお好み焼き等、いまだにお気に入りなことはミーハー的にたくさんあるのですが、そう言えば・・・

  今からちょうど20年前、名古屋に赴任して2年目の時に、大阪のある商社の物流センターの仕事を担当していました。建設地は三重県上野市(現伊賀市)。既にバブルは崩壊していましたが、建設業はまだ景気が良かった頃で、物流センターの玄関ホールに陶壁画をつくろう、ということになりました。

陶壁画の製作者に選ばれたのが、上野市近郊の阿山町(現伊賀市)丸柱地区一帯にある「伊賀焼」の窯元の中で、天保三年(1832年)から続く長谷(ながたに)製陶の七代目長谷優磁(ゆうじ)氏。それまで私も多少陶芸に興味はあったものの、現場が始まってからは毎週のように窯元に通うようになりました。

 長谷製陶さんは、今でもそうですが、土鍋・土瓶など昔ながらの日用食器を提供する一方で、現代的なデザインの食器や花器を扱っておられました。最初はさほど大きくないギャラリーを見てため息をついては帰ったものでしたが、足しげく通ううちに長谷製陶さんの大きな倉庫を見つけ、価格的にもお手頃なものを探索していると、焼〆のビアマグが目に留まりました。その焼〆の風合い・シンプルな形・シンプルな絵付けをいっぺんに気に入ってしまい、少しづつ絵付けのデザインが異なるものを五客、即座に買い込んでしまいました。焼〆の具合で黒褐色で表面がつるつるしているものから黄土色っぽいものまで、また、まれに窯変しているものもありましたが、私は赤褐色のもので、表面が少々ざらついているものが好みです。

ビールを注ぐと土の細かい孔の効果でビールの泡が非常に細かくクリーミーになり、泡がなかなか消えないので、飲むのが遅い私でもいつまでも気が抜けない新鮮なビールをいただくことが出来ます。今ではちょっとしたお店やネット販売でも良く目にするビアマグですが、当時の私には「掘出し物」を見つけた気分で、ひとりで悦に入っておりました。市中にはいろいろなデザインのものが出回っていますが、やはり当時窯元で見つけたこのデザインのものが私の一番のお気に入りで、単身生活の広島にまで持ってきてしまいました。もっとも、私はそんなにお酒が強いほうではなく、家に帰ってもたまに広島のおいしい日本酒をいただくだけで、あまりビールはいただきませんが・・・

  

        長谷製陶の登り窯            焼き〆のビアマグ

 考えてみれば名古屋周辺は焼き物の産地がたくさんあり、愛知は瀬戸焼・常滑焼、岐阜は美濃焼、滋賀には信楽焼など、その後私は各所の窯元巡りを楽しませていただきました。今となっては、現地を訪れることはなかなか叶いません。車が無いと辿り着きにくい場所ではありますが、もし名古屋から伊勢志摩方面に出向く機会があれば、ご興味のある方はぜひ立ち寄られてみてはいかがでしょうか。現地には珍しい登り窯があり、今では創作料理のお店もできています。

  ちなみに、長谷製陶さんはその後もたいへんご活躍されている模様で、いつの頃からか東京の恵比寿にもお店を構えておられます。今では立派なホームページを立ち上げておられ、そこには様々な商品が並んでいますが、やはり現地に行って自分の目に叶うものを探しだすのがよろしいかと思います。参考にH.P.アドレスを紹介します。  http://www.igamono.co.jp/