㈱エスティー・ワイズ  吉野 康夫

「私のお気に入り」のコーナーで拙い自宅を紹介させていただけることになりました。晩年(定年退職後)に建築士の資格を取得し、木造住宅に関わり、こだわりを形にした家、それが「終いの棲家」です。
昔は当たり前であった土壁の木造住宅、いろいろな規制の中でその存在を忘れ去られようとしています。その日本の文化とも言える木造住宅に、現在の生活様式と工学的理論に基づいた木構造を取り入れたいと考え、伝統的構法を守り続けている建築家との出会いなどを通して、形にしたのがこの「終いの棲家」です。この作品は、「渡り顎構法」と言われる伝統的構法を基本にした構造計画です。
「構造=意匠」の考えのもと、構造計画と意匠を同時進行の形で計画しました。
外観は木の無垢の色と、漆喰の白との対比を強調しています。

この木造住宅の設計にあたって

1.高温多湿な日本の気候と風土に合った家

2.木、土、竹、石などの素材へこだわり。木は製材、それもスギ主体の国産材

3.継手・仕口・柱頭柱脚の接合金物は一切使用しない。

4.継手・仕口の加工は、手刻み。


建設地は広島市東区の北端で、50年以上も経た石組みの擁壁のある宅地。

用途地域:第一種住居地域
防火地域:法22条区域

ただ敷地が里道(幅約2m)にしか接していないために、建築基準法第43条第1項ただし書きの規定による許可が必要で、そのため、延焼のおそれの のある部分は防火構造としなければなりませんでした。
基礎 :耐力壁線に地中梁を配したベタ基礎構造
敷地面積 :362.04㎡(約110坪)
建築面積 :112.6㎡(34坪) 妻方向4間、桁方向8間半
柱頭柱脚の仕口 :長ホゾ差しこみ栓打ち、四隅:S-カムこみ栓
梁・桁の継手 :追掛け大栓継ぎ、金輪継ぎ、台持ち継ぎ、竿車知継ぎ等
土台の継手・仕口:腰掛け蟻継ぎ、腰掛け蟻落し等

渡り顎構法

今回採用した「渡り顎構法」の架構計画は、土台・柱・梁と耐力壁で構成される「構面」で形成しています。この中で構造システムをつくる根幹になる構面を「主構面」と呼び、この主構面で閉じられている平面形を構成することが原則です。この主構面で閉じられていることによって変形を制御しています。
桁方向に下梁を配置、梁成はスパンの最も大きな箇所で必要梁成を決定し、同じ梁成で端まで通しています。スパンの間隔は2間を原則として、この下梁に直交する上梁(135×240)を、渡り顎で1間間隔で掛けています。


使用木材:すぎ、ヒノキ(大黒柱・土台)、松太鼓梁くり(ネコ土台)
化粧野地板:すぎ15㎜
床材:すぎ15㎜ UV表面強化塗装
野地板・荒板:すぎ15㎜
屋根:石州防炎瓦 桟瓦葺き ガルバリウム鋼板一文字葺き

貫仕様竹小舞土塗壁(告示1100号)

貫:18×105㎜、4段通し貫
壁:両面塗り、塗厚80㎜ (壁倍率 1.5倍)
外壁仕上:漆喰塗り
内壁仕上:珪藻わら土壁


小舞は、間渡し竹を通し、そこに2cm以上の割竹を4.5cm以下の間隔でわら縄で掻いてゆきます(告示仕様)。竹の間隔は、職人さんの仕事を見ていると、告示仕様とは若干広めで、掻くときに親指が入り、縄が拾える間隔のようです。
土塗壁は、小舞を下地とした荒壁の表裏が一体となることで、強度が発揮できます。そのため、小舞竹の間隔は強度にも大きく影響してきます。
職人さんとの話の中で、最近では小舞を掻く職人さんが広島市の近郊では殆ど居られなくなっていることでした。伝統の技術が廃れてゆく寂しさを感じるとともに、この技術を継承するのも私たち建築士の仕事であると感じました。

壁は、荒壁、中塗り、上塗りの三層塗り。荒壁塗りは、貫伏、裏撫で、裏返し塗り、むら直しの工程を経て、乾燥期間が約4ヶ月、その後に中塗り、上塗りと仕上げてゆきます。桁行中央の小屋にも貫を通し、竹小舞土塗壁で母屋まで塗り上げています。柱と壁の納まりのために「ちりじゃくし」を設け、の れん打ちも行っています。
この住宅の断熱を考えた場合、土壁 の断熱性能は低いと言われていますが、 蓄熱性能、調湿性能は高く、これらを 合わせ考えれば生活様式にもよります が、この地での生活に耐え得るに十分 な壁の構造であると思います。

風の通り道

平面計画での大きな特徴は、桁行方 写真1:全景 向に住宅の中央を貫く一間幅の廊下 (長さ7間、14畳相当)、内部を広く 見せると同時に、車椅子にも十分に対 応できる幅を確保し、併せて住宅内に 風の流れを作る効果も考えています。 夏は両端の窓を開け放つことで、風の 通り道となっており、住宅内の自然空 調の機能を担っています。
また、南側軒下には桧の濡縁を設け、 この廊下と併せての回遊性を考えてい ます。


こだわりと遊び

素材へのこだわりの一つの木製の床換気口、金属製のも のは市販で多くあるのですが、木製のものは見当たりませ ん。これは建具屋さんに図面を描き、頼んで作っていただ きました。材料は杉で、開閉ができるようにしています。
また、こだわりの素材である竹は、小舞に使っているので すが、意匠面では黒竹を使用。飾り丸窓と床の間の地板、 飾り丸窓は近江八幡の製造元から購 入、地板は高知から黒竹を購入し、 これも図面を描き建具屋さんに作っ ていただきました。

その他にも、襖紙は年を経るごとに 味わいが出る芭蕉布、柿渋染の布を 使った引戸など、自宅の設計ならではの遊びも取り入れています。

施工にあたって

施工にあたっては、まず大工さんを探すのに一苦労でした。現在はプレカットが主流で、広島市内では家一軒分を全て手刻みで建てることができる大工さんが少なく、また手刻みをする作業場を確保するのが困難でした。何人かの大工さんと面談させていただきましたが、思いを共有できる大工さんは少なく、最終的には三次に住まわれている大工さんにお願いし、三次から現場まで約1時間を毎日通っていただくことになりました。
そして施工の流れを理解する上で、全ての工事を分離発注としました。当然コスト削減も考えてですが。全ての工程(既存住宅の解体、滅失届、設計、43条の許可申請、確認申請、道路使用許可申請、建物表題登記、所有権保存登記、不動産取得税申告等々)に関わって、家一軒建てることの苦労を身に染みて感じました。 ほぼ当初の工程通り完成できたのも、施工業者の皆さんのご協力あってのことと感謝しています。

着工2011年1月末、竣工2011年11月30日、約10ヶ月を要して完成し、入居後約1年 半が過ぎようとしています。何分初めて の設計でもあり、意匠面、納まり細部、 空調関係等々、反省すべき箇所は出てき ていますが、外構・庭に自ら手を加えな がら“終いの棲家”の完成を目指してい ます。完成まであと何年、いや十数年も 掛かるかもしれませんが、自らの想いを 形にした家、“終いの棲家”であり、いま では一番の“私のお気に入り”の場所と なっています。

使用した仕口・継手の一例